高円寺純情物語


大切な人が亡くなる日が分かっていたら…。こんな後悔はしなくて済むのだろうか。

家事洗濯掃除、仕事に、子供の習い事のあれこれ…慌ただしく過ごす日々の中にふと、連絡が入り急遽あの街をおもう。

私たち夫婦の青春は間違いなくあの街にあり、あの街の、あの人達と共にあった。

「子供は故郷で育てたい」という大してプランもない浅はかな若者の思いのまま、若い夫婦は青春から卒業して、いつの間にか14年もの月日が経っていたなんて。一、二度、仲間のひとりふたりと会うことはあっても、活動には顔を出さないままだった。


週末に通夜、告別式があるという。


とはいえ、子供が楽しみにしている行事もあるし仕事も学校もある。交通費や宿泊費…ちっぽけだけど、今ここにある営みもないがしろにはできない。夫婦はひたすら悩む。

けれど答えは出ていた。「行かない。は、ない。」

そして私たちは、子供達も連れて家族全員であの街へ、あの人の元へ会いに行くことに決めた。

どうしてこんなに時が経っちゃったんだろう。どうしてもっと早く顔を出さなかったんだろう。悔やむものの、自分たちが一番良く分かっている。日々、必死に生きていただけ。


朝積もった雪をはらい、雪道でボコボコに汚れた車で都会へ向かう。

浦島太郎の気分。なんとも言えぬ悲しみと、久々すぎる再開への そわそわ。


目標時間よりもだいぶ遅れて、皆が集まる駅裏の中華料理店へ。

「ついたよ」「今迎えに行く!そこで待ってて!」

言われた場所で待っていると、駆け足で飛びついてくる喪服姿のあの子。

「会いたかったー」

車の中でもだいぶ涙腺崩壊していたけれど、もう溢れ出して止まらない。店の中に入ればそこは、懐かしい顔ばかり。よく見れば皆、白髪が増えたりしているけれど、何も変わらない笑顔が迎えてくれた。14年ぶりの再会の嬉しさと、この場所の真ん中にいるはずの方がいないという事実が悲しくて、皆泣きながら笑っている。

出会った時高校生だったアイツは37歳になって父親になっていても、やっぱりカワイイし

純真無垢な中学生で、赤い口紅を塗ってあげていたあの子は二人目の赤ちゃんの出産を控えていた。

週末のたびにどっぷり共に過ごし、宿題を見てあげたりしていた小学生の子供たちは成人して社会人一年目だという。

寡黙で渋いおじさんはシルバーグレーの髪で増々しびれる渋カッコよさだし

おばあちゃんたちは14年間時が止まっていたかのように何も変わらず元気で妖怪レベルだし


もう、、、そこで何かが変わった。閉じ込めて忘れかけていたものが大解放されたのが分かった。


私は、私たちは、この人たちが心底好きだ。

旦那さんのこんな満面の笑顔を一瞬で引き出せる人たちは、この人達しかいないだろう。

あの時のままの、笑顔と距離感。そこに私たちの子供達も加わり、一緒になってケラケラ笑う嬉しさ。子供達も肌と感覚で目の前にいる濃厚なキャラクター達を受け入れているのがよく分かる。


あの方が、呼んでくれたんだ。ここに呼び戻してくれた。

「いつでも戻って来いよ」強面だけど大きい熊さんのような、あの笑顔に、子供達を見せたかった。「お前にそっくりだな、下の子はママに似て良かったな」なんてあの方にこそ、言われたかった。


胸がいっぱいでホテルに行けど、なかなか眠れない。明日は踊る告別式だというのに。


つづく…








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